もっといい日

「医療決断支援が私の仕事」

もっといい日

 「月刊がん」 提言

2003.5

株式会社日本医療情報出版


”  医療決断支援が私の仕事”  

「赤のカードに賭けなさい」。

プロのギヤンプラーは私にそんなアドバイスをした。答えは簡単である。赤のカードが20枚、黒のカードが15枚入っていることが分かっていたからである。

しかし、私は、黒のカードを引いてしまった。プロのギャンブラーのアドバイスは間違っていたのか?

医療の話をしているのに賭け事を引き合いに出して不謹慎と言われかねないのを承知で、冒頭のたとえ話を作りました。医療方針の判断、決断に際して、それらが確率に左右されることゆえの不確実性を体感していただきたいため、あえて単純な例を示したのです。

つい最近、朝日新聞の「カルテの余白」というコラムでも、同じ話を引用しました。学生への医療判断の講義や一般の方へ医療決断のお話をするときに、「われわれは0点と100点の選別判断をすることはほとんどなく、1点から99点のなかの判断であり、その多くは60点と65点を比較判断することを迫られるのです。そして、その両方の結果をあらかじめ見比べることができないために、その判断が正しかったかどうかの評価、反省が実に困難なのです」ということを必ず説明します。

つまり、結果が良かったから正しい判断、結果が悪かったから間違った判断、というふうに評価できないのです。

今は、がんの治療方針にも、さまざまな選択肢があります。

手術をするか、化学療法でいくか、放射線治療にするか、免疫療法は加えるのか、民間療法も気になる、といった具合に、考えれば考えるほど迷います。ひとつを選択するということは、ほかの選択肢を捨てるということになるのですから、決断は簡単にはいかないのです。患者の気持ちとしては、結果が良いことがすべてなのですが、冒頭にお話した理由で、結果から正しい判断だったかどうか判定できません。

このような背景があるからこそ医療決断をする際には、本当に手間隙かけたいものです。たとえその結果が悪い方向へ行ったとしても、「別の選択肢を選んだよりきっと良かった」と思えるほど、よく考えて判断、決断することが何より大切です。

アメリカの医学生が卒業するときに、ヒポクラテスの誓いをします。「患者に良いことのみを行い、決して悪いことを行ってはならない」。

医師にとって、この当たり前のことを医療の結果のみから判断すると仮定すれば、厳密に実行することは到底不可能です。副作用のない治療法はないのだろうし、誤診のない診断の名医は存在しません。ましてや、私の主唱する「科学的根拠に加えて、患者の心理学的状況や社会的背景までも考慮した医療判断理論」において模範解答は存在しないのです。

しかし、誤解しないでほしいのは、医療の不確実性を理由に、不誠実な診療や、勉強不足の医療人に言い訳の余地を与えるつもりはないということです。医療の分野において不確実性は常に伴うけれど、かのヒポクラテスの究極の命題を常に追い求める姿勢を持った医師や医学者であるということは不可能ではないのです。皆さんも、そういった姿勢を持った主治医と出会えることを祈っていますし、もし出会えたら、その主治医を信頼し大切に付き合っていってほしいと思います。

    

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