生活習慣病予防対策

学校保健と地域保健が手をつないだ生活習慣病予防対策

公衆衛生

2001.6

The journal of public health practice 発行


全国の事例や活動に学ぶ

学校保健と地域保健が手をつないだ生活習慣病予防対策

生活習慣病の予防は小児期から行う必要がありますが、実行のためには種々のハードルがあり、中でも特に学校保健との連携は難しいといわれています。

石川県では平成11年度予算で、厚生部と教育委員会が学童に対する健康教育をそれぞれ独立に企画したところ、財政課から一本化して行うよう指示があり、思いがけず両者が本格的に手を組んだ事業が誕生しました。

当センターは、各医療圏ごとに一つ選ばれたS小学校と連携して児童とその保護者を対象に様々な試みを行いました。事業の担当はそれぞれに分かれていますが、実際には学校と保健所が協力して行いました。

県教育委員会が行った「生活習慣等実態調査」によると、児童では「朝食をほとんど食べない」が2.1%、「ほぼ毎日夕食後から寝る前までに何か食べる」が23.4%あり、保護者では「学校における給食指導で現在よりもカを入れてはしいもの」の1位は「栄養バランスのよい食べ方」ということがわかりました。

これらの結果を踏まえ、学校では全員参加の「校内すこやか教室」で朝食の質の見直しや「すこやか健康カード」を利用した自分自身での健康管理を、当保健所では自由参加の「学童食育よもやま塾」(下写真)でおやつの成分や栄養表示の見方を中心にした学習を行いました。また、保護者には「キレる子どもにしないために」と題したフォーラムを開催し、食事と子どもの心の関係を学習しました。しかし自由参加の行事では、健康への関心が高い児童や保護者が主として参加する傾向にあるという問題点がみられました。

2回目の「子どもの健康・食育検討会」で各事業の評価を行いましたが、学校関係者から「学校の風通しが良くなった。学校をもっとオープンにし、外からの人材を取り入れる必要性を感じた。」との発言もありました。

今年度は3年目を迎え、新たな学校をモデル校として事業に取り組んでいるところですが、今後は

  1. 学校の総合学習などの中にカリキュラムとして定着させる
  2. 校内すこやか教室と学童食育よもやま塾の一本化を図り本当に参加が必要な子どもが全員参加できるようにする

必要があります.

この事業が地域保健と学校保健の連携強化の追い風となり、保健所が地域の専門家集団として、この事業のみならず学校保健全体を支援していけるようになりたいと考えています。

●たなかたかこ:前石川県石川中央保健福祉センター健康推進課
 連絡先:石川県立金沢女子専門学校 〒921-8042石川県金沢市泉本町6-105(℡ 076-243-2168)


コメント(寺下謙三:寺下医学事務所)

「成人病」という呼び名が「生活習慣病」というように変わって数年がたつ。元来、「成人病」という呼び名は医学用語として生まれたものぞはなく、日本の厚生省が1950年代より使いはじめた行政用語であり、これに該当する言葉は欧米にも存在しない。近年、日本人の疾病構造において食生活を中心とした生活習慣に関与する糖尿病、高血圧症、高脂血症、痛風、肥満症などの慢性病が急増している。また、こういった病気にかかる人の年齢層が低下してきたという理由もあり、この一連に分類される病気は「成人病」という言葉から連想されるような中年以降の壮年、老年に限定される病気ではないということの警告を込めて,厚生省は1997年「生活習慣病」という呼称を使おうと提唱したのである。

実際に小児の肥満や高コレステロール血症、高尿酸皿症などが高頻度に出現してきている。原因はいろいろあろうが、ファーストフードなどをはじめとした食生活の変化をまともに受けているのが、ほかならぬ子どもたちである。また、小学生以下の段階の食生活習慣は、成人後の健康状態にも強く影響を与えるほか、学校でのいじめの問題、不登校、青少年の犯罪の多発などにも少なからぬ影響を及ぽしているといえる。生活習慣といえば、食生活がほぼ中心ではあるが、運動習慣、テレビゲームなどの遊戯習慣、喫煙、飲酒、麻薬類などの問題も未成年の間で問題になっている。その他、人間関係を中心とした精神心理的なことも広い意味での生活習慣に含まれるであろう。

しかし、こういった児童にとっての生活習慣の重大さはわかっていても、学校の内部において、その改善に具体的に取り組むのは意外と困難なのが実情である。とりわけ日本の場合、学校教育の管轄と、保健事業の管轄の官庁が異なるために、学校自体も総合的に取り組むことが困難である。今回の試みは、財政上の理由から偶然にも地方自治体の教育と保健の立場を交えて、小児の食生活の改善に取り組んだ事業として注目に値する。学校では全員参加の「校内すこやか教室」を中心に、児童の自分自身の健康管理のための知識の指導を行い、保健所では自由参加の「学童食育よもやま塾」を実施したが、いずれも児童自身の自覚を促すという考えであり非常に評価できるものである。今後こういった活動を踏まえて、普段のカリキュラムとして小児の生活習慣の改善のための総合学習の場を作り,自由参カロの健康塾にも積極的に参加する児童を増やす努力をするという意気込みは特に支持したい。日本は官庁制度が優先するあまり、縦割り的行動が支配してきたが、健康分野でも、例えば産業保健は旧労働省、家庭の保健は旧厚生省の管轄であり、その協同作業が困難であったが、今回の厚生労働省の新設で、そのことは改善していくぞあろう。従来の枠にはまったやり万を踏襲するだけでなく、今回の事例のように、現場主義を取り入れ、より実践的に役立つ方法を採用していくことが大切であろう。

こういった事例を全国的にも紹介し、学校保健と地域保健の連携の重要さをアピールしていただきたいと切に願うものである。

    

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