かかりつけの医師の選び方と付き合い方
“かかりつけの医師”の選び方と付き合い方 |
NECけんぽ 1996.1 朝日生命保険相互会社発行 |
現在の保険診療では、医師にかかるには何らかの病名がつかなければなりません。病気でなくても、「大腸ガンの疑い」があるというようなことがなければ、健康な人が病院に行ったり、医師の診断を受けたりしても、それは医療行為とみなされず、医療報酬も保険財源からは支払われません。
しかし、たとえ今は健康であっても、ほとんどの人は自分や家族の健康に疑問を持ったり、不安を抱えています。つまり病気のケア以前の健康維持という問題や、病気になったらどうしようという問題に、多くの人が悩み、心配しているといってもよいでしょう。
「主侍医」ということと「かかりつけ」ということ
ここに私が提唱し、実行している「主侍医」というシステムの存在価値が生まれます。主侍医という言葉は、ふつう使われる病気を治すための「主治医」ではなく、健康なときから「あなたのそばに侍(はべ)る」という意
味をこめて私がつくった造語で、契約制の顧問医を指すものです。この主侍医を私が実践した経験から、多くの方が望んでいる「かかりつけの医師」とはどのようなものかがわかるようになってきました。その要望の多くは次ようなことです。
かかりつけ医に対する要望
- 今は健康だが色々な相談をしたい
- ある症状が出たが、どの専門医にかかればよいかがわからない
- 専門医にかかって治療中だが、このままで良いか不安だ
- 治療方針の選択や決定などに関して、自分の立場に立って親身にアドバイスをして欲しい
- 気になる病気の基礎的知識と最新の治療法などを教えてほしい
- 病気にかからないように、またかかっても大した症状にならないよう、生活上のアドバイスがほしい
もちろん病気になったとき、かかりつけの医師がいればまず安心です。しかしそれ以上に、相談相手としての医師を必要としているということがクローズアップされてきました。
ただここで問題になるのが、くり返すようですが、健康時の相談は現在の保険診療では保険点数にならないことです。
日本ではまだ相談や情報は無料という意識が強いのですが、この意識を変えて、かかりつけの医師を探し、健康相談などをしてもらう契約などをしてみてはいかがでしょう。もちろん個人では負担が大きくなりますから、
グループなどでまとまって、いろいろ相談することも考えてください。
私の主宰している「健康医学塾」という寺子屋的集まりもひとつの方法だと思います。
近所の方など20~30名が集まり、月に1~2度、教養としての医学を勉強するのです。その講師になってくださる医師を探し、講師のほかに「かかりつけの医師」もお願いしてみてはどうでしょうか。もちろんこの集まりのとき、健康相談をお願いすることもできます。費用も月謝として、子どもの習いごと程度におさめられるのではないでしょうか。
遠くの名医より近くの良医をかかりつけの医師に選ぶ
「かかりつけの医師」ということがいわれていますが、そのような医師を探すことはそれほど簡単なことではありません。特に最近では医師が専門化し、勤務医が多くなってきました。開業医も高齢化し、数も減ってきています。そして患者さんの側でも、専門医に診断をしてほしいという要望が強いのです。
私も専門医の経験をしてきましたが、現在の医療の枠組みに疑問を感じます。病気は専門的にだけ診ても、わからない場合が多いと思うようになりました。人間の身体というものは総合的に診なければならない……そしてその判断から、もっとも適切な専門医に紹介して、治療するなどの方法を採ることが必要だ、と考えています。総合的に診ることは専門的であることとは違い、ディレクター的な仕事であり、音楽でいえば指揮者のような立場です。指揮者はピアノなどはピアニストほどうまくは弾けないでしょうが、すべてを知り、まとめあげる能力を持っています。この総合的な知識や能力は、今日の医学界でもなかなか評価はされにくいものですが、本当は大変難しく、もっとも大切な仕事なのです。
さて、そのような大切なあなたの健康のディレクターである「かかりつけの医師」をどのように探したらよいのでしょうか。その条件を下にあげてみました。
かかりつけの医師を選ぶポイント
- 近くに住んでいる医師
- いつでも診てくれる医師
- 何でも相談にのってくれる医師
- 心から信頼できて相性が合う医師
- 専門医ネットワークをもっている医師<
- 探す側の立場として‥主侍医は1人に決めておく(ドクターショッピング-浮気-はしないこと)
これらの条件をすべてクリアするのは困難なことですが、医師との日ごろの人間関係でかなりの部分が可能になります。
医師とよい関係を築くためにはよい患者となるこ亡も大切
「かかりつけの医師」を探すといっても、一方的に探すということではありません。医師といっても人間ですから、好ましい患者像を考え、そのような人には多少の無理も聞きたいということになhソます。
ほかの医師の悪口を聞くと、私などは、いずれ自分もこういわれるのかと考えずにはいられません。そして「先生」と呼ばれるよりも「00先生」と呼ばれるほうが、個人的に親しさを感じます。「注射をしてほしい」とかの治療法の指定はしてほしくありませんが、クスリは少なく、レントゲンは控えたいなどの希望ははっきりさせたほうがよいでしょう。
また、診断を受けたらその後の経過を教えてください。特に治った場合、ほとんど連絡がないのですが、治って調子がよいなどという“お知らせはがき”を送ってくれれば、さらに親しさが増します。医師の側でも、その症状の成功した治療経験が増えることになり、自分の治療に自信を持つことにもなります。
いいにくいことかもわかりませんが、よくならないときも、ほかの医師を訪ねる前に、その結果を知らせてほしいのです。
電話での質問などは、医師が時間の余裕のあるときに‥‥。といっても、これなどはかなりその医師と親しくなければわかりません。前もって電話連絡してよい時間帯を開いておけばよいでしょう。
医師から見たよい患者
- 他の医師の悪口を言わない
- 医師の名前を覚える
- 治ったときなどに医師にメッセージを送る
- 治療法は指定しないが希望ははっきり言う
- 担当医が忙しい時の連絡は避ける
かかりつけの医師の選び方とつき合い方
治療はクスリを出すだけではない。話をする満足を知ってほしい
医師と患者さんと人間的な関係がなければ、よい「かかりつけ」の関係もできないと考えています。患者さんの中には検査をしたり、クスリなどを出さないと、診察を受けたという実感を抱かないことも多いのです。時間をかけて患者さんの話をよく聞くことは、本当はもっとも重要で手間のかかることなのですが、それだけでは満足されない‥‥。医療とは、どれだけていねいに患者さんと関わるかだと考えているのですが、このあたりにも「かかりつけの医師」を持つ障害がありそうです。
さて最後になりましたが、相性の合う医師ということでは、ご自分の年齢よりちょっと若めの医師を選ぶということがひとつの目安になります。これは同世代意識があり、話も通じやすいということからの理由です。