グローバルより顔なじみ③ 割れ窓理論に思う

 

2004.5~2005.4

グローバルより顔なじみ③  割れ窓理論に思う

ばんぶう

2004.7

日本医療企画


今やニューヨークは、東京よりも安全だと言われるようになった。数十年前のニューヨークを知るものにとっては信じがたい話らしい。自慢ではないが、私は、昔のNYも今のNYも知らない。聞きかじりとさまざまな報道や記事から想像しているだけである。昨今の日本、特に東京での生臭い事件報道を見るにつけ「少なくとも日本の安全神話はとっくの昔に崩壊している」と納得がいく。
 話を主題に戻そう。「割れ窓理論」について若干の説明をしよう。1970年代、犯罪学者ジョージ・ケリング博士が提唱した理論である。その一部から抜粋的に説明すると「割れ窓(割られた窓)とは、この言葉のとおり建物やビルの窓ガラスが割られ、そのまま放置しておくと、外部からは建物やビルは管理されていないと認識され、さらに割られる窓ガラスは増え、建物やビル全体が荒廃し、その結果、地域全体が荒廃していく」となる。では、割れ窓をなくすことで何が変わるのかというと「安全に対する住民意識が変わる」というのである。
 この理論を1994年はじめて実際に応用実行したのが元NY市長のジュリアーニ氏である。日本の犯罪学者小宮信夫氏は「犯罪を減らすためには、犯罪心理学など原因の探求ばかりに固執することより、犯罪が発生する機会を減らす工夫が大切であり、そのひとつに領域性ということがある。つまり、地域住民の結束感〈縄張り意識)を深めることが大事である」と話してくれた。「縄張り意識」というと、悪いイメージに使われがちだが、むしろ「まず隣近所を大切にしなさい」という人間社会として当然の教えなのだと私は考える。近所付きあいを忘れて、グローバルを連呼する日本の社会に犯罪者が混じりこんでも見分けもつきにくいし排除する力も弱い。日本版「割れ窓理論」や「領域性」は犯罪予防の分野のみならず、われわれ医療分野も含め、多くの分野で応用実施されることが望ましいと私は考えている。私の心の窓も若干修復が必要だなあ、と感じ入る次第である。

    

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