グローバルより顔なじみ⑧ 自然に顔馴染みは通用しない

 

2004.5~2005.4

グローバルより顔なじみ⑧
自然に顔馴染みは通用しない

ばんぶう

2004.12

日本医療企画


大雨、台風、新潟地震とこのところ自然災害が相次いでいる。政治問題や企業汚職なとのニュースが陰に隠れる勢いである。これだけ苛酷で凄まじい自然の猛威にさらされ、現代文明もたじたじといったところである。ついにあの不滅の新幹線も脱線した。奇跡的に犠牲者が出なかったのは、人間の叡智なのか神の情けなのか判然としない。これだけ厳しい自然の試練を与えられると、少なくとも人間同士いがみ合ってはいけないなあという思いが募る。それでも、人は人を妬み嫉み、他人を騙してでも自己の利を追求し、自己の快楽に走る歴史を繰り返すのであろうか。
 最近、私は友人から心痛む話を聞いた。詳しい内容は差し控えるが、自己の利を守るために長年の友人である彼を裏切り、自己の会社での立場を守るために人間としての誠実の魂を悪魔に売り渡したのだ。そしてもっと悪いのは、そんな自分の心を守るために自分をも裏切る嘘をついているようなのだ。よくある話ではある。私は、その話を聞いて、裏切られた人に同情するのではなく、むしろ魂を売ったほうに哀れみを感じてしまった。何も正義感ぶって言っているのではない。私は職業柄、心に傷ついた人の相談を受けることが多いから、こんな話に敏感になりがちである。地震の被害にあった人の傷も相当だが、思わぬ人に裏切られた心の傷は相当深い。最大の傷は親に裏切られた場合であることは、皆さんもご承知であろう。ダンテス・ピークという映画であったと思うが、主人公の「自然は苛酷だが、人間はもっと残酷だ」というセリフを思い出した。
 自然には、顔馴染みの情けなどなく、容赦なく我々に災害をもたらす。むしろ「大雨の後に地震」というように、自然には泣き面に蜂的に、顔馴染みにきつく当たる傾向さえある。そんな自然より残酷な人間にはあまり会いたくないものである。

    

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